不揮発性メモリへの応用を目的としたSrBi2Ta2O9薄膜の作製および評価

【はじめに】シリコンメモリ材料の物理的限界に伴い、新素材材料として強誘電体を用いた次世代型不揮発性メモリの研究が盛んである。なかでもSrBi2Ta2O9(SBT)酸化物強誘電体薄膜は分極反転に対する疲労現象が起こりにくいため大変注目を集めている。その熱処理には800℃という比較的高温が必要されていたため、低温形成を目標として結晶化プロセスの解析を行った。

さらに、強誘電体メモリを高集積化するために、プロセス耐性,化学安定性を高める必要がある。シリコンプロセス中の還元雰囲気の熱処理後のプロセス耐性の向上を目標として、強誘電体薄膜の化学状態分析を行い,ビスマスの酸化状態の定量的な解析を行った。

【実験】アルコキシド混合液およびゾル・ゲル溶液を用いた。原料には炭素数4以下のアルコキシドを用いた。スピンコート法でPt / SiO2 / Si基板上に120ナノメーター程度の厚さになるようにSBT薄膜を6回繰り返し成膜した。450℃で一次焼成した後、650、700,750、800℃でのファーネス処理(FA)ならびに急速加熱(RTA)を行った。結晶化プロセスの解析には、X線回折分析(XRD),走査型電子顕微鏡(SEM),透過電子顕微鏡(TEM;H-8100,Hitachi,200kV)を用いた。組成分析にはTEMに付属したエネルギー分散型X線マイクロ分析装置(EDX)を用いた。表面化学状態はX線光電子分光法(XPS)により定量解析した。

【結果および考察】

650、700,750、800℃で焼成した強誘電体薄膜について検討を行った。XRD解析により、結晶化が650℃以上で起こり、700℃以上でビスマス層状結晶が形成されることを確認した。表面および断面SEM観察を行った。650℃焼成では微結晶体により構成されているが、700℃、750℃では100ナノメーターを超える結晶体と微結晶体の混合膜であった。800℃焼成では100ナノメーター程度の石垣状の結晶により緻密な膜が形成されていた。電気特性は、650℃では常誘電体であるのに対し、700℃以上で強誘電性が現れ、その特性が800℃まで上昇することを確認した。この結果から、石垣状結晶が強誘電体結晶であると推察された。それらの結晶の表面および断面TEM観察を行い、石垣状結晶がビスマス層状結晶であることを確認した。また、650℃の微結晶体はフルオライト構造をもつことが電子線回折から確認できた。

750℃以下で緻密な膜を得るために、650℃から750℃で焼成した薄膜に存在する微結晶部(常誘電体部)の組成変化についてTEM観察およびEDX分析により検討した。その結果、焼成温度の上昇により微結晶領域のビスマス量の低下することを明らかにした。この微結晶部の変化について,電子線回折により結晶構造解析を行い、ビスマス組成の低下に伴い、微結晶部の結晶構造がフルオライトからパイロクロア構造への変化することを明らかにした。このパイロクロア構造が生じさせないことが強誘電体の低温形成に必要なことが示唆され、低温形成のための対策として、ビスマスの原子レベルでの混合が可能なゾル・ゲル法が有効である可能性を示された。

さらに、ファーネス処理(FA)ならびに急速加熱(RTA)による強誘電体薄膜に化学安定性に相違があることに着目して、比較検討した。どちらも結晶構造のXRD、SEM、TEM観察においては、顕著な違いが見いだせなかった。その化学安定性は、石垣状結晶以外の部分の化学状態の違いであるという仮定を立てて、表面化学状態をX線光電子分光法(XPS)により定量解析した。その結果、RTA処理膜に金属状態に近いビスマスが多いことを見出した。強誘電体結晶自体は結晶構造に違いがなく、化学状態も同一であると仮説して、強誘電体結晶以外の粒子界面部分に主に金属状態に近い粒子の存在を予想した。その仮説に基づき、高細密TEM観察により結晶粒子の界面においてビスマス過剰の安定性の低い粒子を観察に成功した。そのビスマス過剰界面成分を発生させないために、原料に過剰ビスマスを加えずに結晶化させることが化学安定性の向上に有効なことが示された。これらの知見を活かして、ゾル・ゲル法により低温で焼成できて、かつ従来の10倍の化学安定性の向上した強誘電体薄膜を作製することに成功した。

 

【まとめ】

SBT薄膜は650℃以上で結晶化し、ビスマス層状結晶は700℃以上で得られた。

750℃以下ではビスマス層状結晶と微結晶部の混合膜が形成された。

750℃以下の微結晶部の結晶構造および組成を分析した。

ファーネス焼成と急速焼成のSBT薄膜の結晶構造を比較したところ両者に違いはなかった。

ファーネス焼成と急速焼成のSBT薄膜の化学状態を比較したところビスマスの状態の相違があった。

 

ゾルゲル法を用いて、結晶化を促進しながら化学安定性の高いSBT薄膜の形成に成功した。